犬の腫瘍(ガン)

犬の乳腺腫瘍(乳ガン)

犬の腫瘍で圧倒的に多いのが乳腺腫瘍です。特にメスの場合、腫瘍の50%以上が乳腺にできます。
乳房(乳腺)にできる腫瘍には、良性と悪性(乳ガン)がありますが、乳がんである確率が高く、高齢のメスには特に気をつけたい病気のひとつです。
スキンシップをかねて胸・わきの下から下腹部・内股をなでて、小さなシコリなどができていないか調べましょう。

症状

10〜11歳のメスによく見られ、妊娠した経験があるかどうかには関係なく発生します。オスにもできることがありますが、メスに比べれば極めて稀です。
犬の乳腺は人間と異なって、左右に5対(4対のものもある)あり、それぞれがつながっています。乳腺の腫瘍は、乳房をふれるとしこりが感じられるのが唯一の症状です。
犬の乳腺腫瘍には良性のものと悪性のものがありますが、悪性のもの、すなわちガンである確率は約50%だといわれています。乳腺にしこりを見つけたら、小さいうちに獣医師の診察を受けてください。
乳ガン(悪性腫瘍)の場合には、しこりは急速に大きくなり、1〜2ヵ月で2倍程度になります。初期には、その他の異常は全く認められません。

原因

治療

ガンが疑われる場合には、しこりの部分だけを切り取るのではなく、まわりの健康な組織も含めて乳腺ごと切除します。直径1センチ以下の大きさのガンなら、手術によってほとんどが完治します。

犬の体の表面の腫瘍(ガン)

皮膚や皮下にできる腫瘍で、ふつうはしこりができますが、皮膚病か傷のように見えることもあります。乳腺腫瘍についで発生率の高い腫瘍です。

症状

皮膚や皮下組織など体の表面にできた腫瘍は、多くの場合、皮膚にふれるとしこりとして感じられます。ただし腫瘍の種類によっては、肉眼では皮膚病や潰瘍、外傷などと区別できないことがあります。腫瘍の場合、ふつうの皮膚病に対する治療では治らないのが特徴です。
皮膚や皮下組織の腫瘍は、犬の腫瘍5821例中1814例あり、約30%を占めています。
体表部の腫瘍には、良性のものと悪性のもの(ガン)があります。良性腫瘍では腺腫、脂肪腫、上皮腫などがよく見られます。他方、悪性腫瘍では肥満細胞腫、腺ガン、扁平上皮ガンなどがよく発生します。

原因

紫外線や放射線の影響、あるいはホルモン、遺伝の関与などが考えられますが、原因の特定はできません。

治療

大きさが直径1センチ前後の早期の腫瘍があれば、乳ガンと同様、まわりの健康な皮膚を含めて大きく切りとる手術によってほとんどが完治します。

犬の口腔の腫瘍(ガン)

歯茎や舌、口の中の粘膜、のどなどにも腫瘍ができます。犬は口を大きくあけることが多いため、飼い主が気づきやすい腫瘍です。

症状

口の中にしこりが生じます。また、物を食べにくそうにする、口臭がする、よだれが出る、口から出血するなどの症状を示します。
よく発生する腫瘍には、良性のものではエプリス、乳頭腫、骨腫(骨の腫瘍)があり、悪性のもの(ガン)では悪性黒色腫、扁平上皮ガン、線維肉腫などがあります。

原因

口の中の手入れを怠るのも原因のひとつですが、ほかの腫瘍同様、明確な原因をあげることはできません。

治療

ガンの場合には、しこりだけをとっても治りません。かわいそうなようでも、命を救うためにはあごの骨を含めてガンを切除します。あごの骨が一部なくなっても、思っているほどに顔の形は変わりませんし、食事のときにも困りません。愛犬の命を守るには、飼い主の決断が必要です。

犬の骨の腫瘍(ガン)

骨のガン(おもに骨肉腫)は大型犬の前足に多く見られます。ガンにかかる平均年齢は7歳といわれていますが、2歳前後の犬にも発生しますので、注意してください。

症状

足を引きずる(跛行)などの歩行の異常と足の腫れが見られます。大型犬で、外傷がなく、ねんざしたとも思えないのに足を引きずっている場合には、すぐに獣医師の診察を受けてください。
おもな腫瘍には良性腫瘍として骨腫、悪性腫瘍として骨肉腫および軟骨肉腫があります。

原因

遺伝的なものや食生活、運動不足など、多くの要因が考えられます。

治療

骨の一部だけにガンができている早期の段階には、足の切断手術と手術後の抗ガン剤などによる化学療法を行えば、完治する可能性があります。
早期に発見して骨の移植をすれば、足を切断しなくてもすむ場合もあります。しかし、命を救うためには多くの場合、残念ながら足を切断しなければなりません。
ガンが進行した場合、足の切断手術のみで1年後に生存している確率は10%です。しかし、手術後に抗ガン剤による治療を3〜6回行えば、生存率は50%にまで上がります。
骨のガンは、病変部をそのままにしておくとどんどん大きくなり、肺などに転移して犬を死に至らせることになります。しかも、犬が死ぬ前の数カ月の間、ガンは体に激しい痛みを引き起こします。
多くの飼い主は、診断がおりたときに足の切断を拒否しますが、ほんとうに犬を大切に思うなら、外観上のことや手術がかわいそうだからといった感情はおさえて、冷静に愛犬のための判断をくだしましょう。足を切れば治る可能性もあり、激痛からも解放してあげることができるのですから。

犬の腹部の腫瘍(ガン)

腹部の臓器(消化管、肝臓、膵臓、脾臓、腎臓、卵巣、子宮、膀胱など)にも、さまざまな腫瘍が発生します。犬は人間と違って自覚症状を訴えることができないため、残念ながらこの部位の腫瘍は、進行してから獣医師の診察を受けることが多くなります。

症状

腫瘍のできた場所によって多少異なりますが、元気がなくなる、体重が減る、嘔吐する、下痢をする、便や尿が出にくくなる(排便・排尿障害)、おなかがふくらむなどが主な症状です。膀胱ガンや直腸ガン、子宮ガンなどでは、血便や血尿、膣からのおりものが見られることもあります。
腫瘍の場合、これらの症状は、通常の治療法ではよくなりません。

原因

リンパ腫が原因でできることもありますが、確定的ではありません。
化学物質、偏った食生活、運動不足、ストレスなど原因はさまざまなことが影響しているのかもしれません。

治療

ガンを切除し、その後は抗ガン剤を与えるなどの化学療法を行います。
膀胱ガン、直腸ガン、子宮ガンなどは、血尿、血便、膣からのおりものがあるために飼い主が気づきやすく、早期の手術によって治る例が多くあります。
肝臓ガンや胃ガンなどはかなり大きくなってからガンを診断されるため、多くの場合、手術でガンを完全に切りとることは困難です。しかし、対症的な手術を行えば、病気であっても生命の質を保ちながら、1年以上にわたって生存することが可能です。

犬の悪性リンパ腫(リンパ肉腫)

リンパ組織(リンパ節)は、あごの下、わきの下、またのつけ根などや、胸腔などの体のいたるところに存在します。リンパ組織にできるガンは、悪性リンパ腫やリンパ肉腫と呼ばれ、治療をしないと平均3ヵ月前後で脂肪してしまうおそろしいガンです。

症状

どこのリンパ節がガンにおかされているかで症状はかなり異なります。犬では悪性リンパ腫の80%以上が体の表面のあらゆるところのリンパ節が腫れるタイプ(多中心型)で、ほとんどの場合はあごの下のリンパ節が大きくなってから飼い主が気づきます(ただしあごの下のリンパ節は、歯石や口内炎のある犬では慢性的に腫れることがあります)。このタイプの場合の全身の症状は元気がなくなり、食欲が少し失われる程度で、特別な症状はありません。
腸や腹腔のリンパ節が腫れるタイプ(消化器型)では、下痢や嘔吐が見られます。また、胸腔のリンパ節が腫れるタイプ(縦隔型)では、せきをしたり、呼吸の様子がおかしくなったりします。また、皮膚自体がおかされるタイプ(皮膚型)では、肉眼では皮膚病と区別がつきません。

原因

遺伝的なものがほとんどで、予防はとくにありません。近年とても増えてきている病気です。

治療

抗ガン剤を注射することにより、約80%の確率でリンパ節の腫れがひき、元気な状態にもどります。
一般に抗ガン剤は、毛が抜けたりするなどの副作用が強いという悪いイメージがあるようですが、的確な治療を行えば、病気にかかった犬のうち25%は、2年以上にわたって健康な状態で生存できます。