犬のその他の皮膚病

ノミによる皮膚炎

症状

犬の体表の、特に耳の後ろや背中から腰にかけて、あるいは尾や肛門や陰部のまわり、下腹部の皮膚に脱毛やプツプツとした赤い発疹が見られます。大量のノミが寄生すると激しいかゆみと吸血で睡眠不足となり貧血になります。
ノミの寄生に対する反応は個体によって様々です。中には500匹以上ものノミが寄生しているにも関わらず全くかゆがらない犬もいます。

原因

犬の体の表面に1.5〜2ミリほどの褐色の素早く動き回る虫や、濡れた紙にとると血液のように褐色のにじみができる黒い粉のような糞、または0.5ミリほどのコロコロと転がる白い卵が見つかればノミが寄生しています。
ときには、犬小屋の敷物に2ミリほどのウジ(ノミの幼虫)が動いているのを見ることがあります。
ノミは犬舎の床や屋内の絨毯、畳の部屋などでも繁殖をくり返すので、駆除が困難になることがあります。
犬に寄生するノミはほとんどネコノミです。このノミは犬に皮膚炎を起こすばかりではなく、ネコ条虫(サナダムシ)の中間宿主として犬にもネコ条虫を媒介します。ノミは夏に出ると思われていますが、冬でも多く見られます。
人間も、このようなノミに刺されることがあります。このとき膝から下に激しいかゆみを伴う発疹ができ、ノミ刺咬性皮膚炎になります。

治療

ノミの駆除は犬だけでなく小屋などの広い範囲の生活環境に気を配ることも必要です。同居している犬や猫にも寄生しているので同時に駆除しなければなりません。
ノミによって被害を受けた皮膚には、アレルギー反応をおさえる薬(抗アレルギー薬)、かゆみを止める薬(抗そうよう薬)などを服用させます。しかしまずはノミを駆除して、再びノミが寄生しないように処置することが必要です。
ノミの駆除には、皮膚から吸収されてノミやダニを殺す滴下剤やスプレー、殺虫剤を含んだ浴剤、あるいはノミの繁殖を阻害してノミが増えないようにする薬剤、殺虫剤を含んだ首輪(ノミ取り首輪)など各種の薬剤が用意されていますので、これらを組み合わせて使います。
ノミは犬や猫に寄生する瓜実条虫(ネコ条虫=サナダムシ)を媒介する中間宿主です。犬や猫の衛生的な環境を守るためにも、また人間の生活環境のためにもノミを発生させないように心がけなければなりません。

毛包虫症

症状

生後4〜5ヵ月から8〜9ヵ月の性成熟期をはさんだ幼い時期に発症します。
はじめは口や下顎、目の周囲、前足の前面などの皮脂線の多く分布する皮膚に、毛が抜けた部分が広がるといったことから始まります。次第にニキビのような膿疱がたくさんできて、それらが集まって広くびらん(ただれ)を起こすようになります。
脱毛が発見されるような初期にはかゆみはないのが普通です。しかし病巣は次第に頭や肩、背中、腰、肛門の周囲、下腹部や膝の内側、さらには包皮の先端や足先にまで見られ、ときには全身に広がります。

原因

よく毛包虫に寄生されている犬に接触することによって感染すると言われていますが、多くは母犬から授乳中に感染して、発育期に皮膚病として発症します。
潜在的には半数以上の犬がこのダニ(毛包虫)を持っていると言われています。しかし毛包虫症の発病や進行には、年齢的な問題だけでなく、この皮膚病になりやすい犬種や免疫力などの抵抗性の低下、食事の傾向なども関係しています。
最近では発育途上の犬ばかりでなく、10歳以上の犬にもこの皮膚病が増えてきました。高齢になってからの毛包虫症は治りにくいのですが、この場合は、年齢によるホルモンのバランスのくずれや皮膚の抵抗力の低下などに毛包虫症を悪化させる原因があると考えてよいでしょう。

治療

毛包虫症は犬にとっては致命的な皮膚病といわれていましたが、最近は寄生しているダニを殺す内服薬の抗生物質の開発や、その他の治療法の進歩によって治る皮膚病となりました。
発見したら早い時期に治療することが必要です。毛包虫症の前歴がある犬や、そのような疾病をもつ集団から犬を購入した場合は、すぐに検査・処置をする必要があります。
ダニを殺す抗生物質の服用と殺ダニ剤を含む薬の薬浴を並行して行います。
治療には長時間を要するので、獣医師の治療計画を守って処置を続けることで治すことができます。

疥癬

症状

耳のふちや顔、ひじ、かかと、足の甲などにかたく固まったフケや激しいかゆみのある発疹(皮疹)ができます。進行すると、フケが固まって厚い痂皮(かさぶた)をつくり、その下の皮膚ではヒゼンダニが繁殖します。

原因

猫にも同じような疥癬があって、犬と同じような皮膚症状をつくり、犬にも感染します。都会では猫の疥癬の方が多いようですが、猫の疥癬が犬に感染したり、犬から犬へ猫疥癬が感染する例もあります。
集団飼育している犬舎で蔓延することがあり、犬を抱いたり触ったりすると、人間にも腕や胸部、腹部などに激しいかゆみを伴う小さな赤い発疹ができます。
くしやブラシ、バリカンの共同使用には注意が必要です。犬舎の敷物も感染のもとになります。

治療

まず思い切って全身の毛を短く刈ります。これが病気の範囲や病気の程度を知り治療の効果を上げることにつながります。
次にダニを殺す抗生物質の内服薬や、ダニを殺す外用薬や薬浴剤などで処置します。これと並行して、皮膚の回復を助ける薬を服用させます。
他にも犬や猫を飼っている場合は、それらの動物も検査しなければなりません。また、ヒゼンダニを駆除した後も生活環境の衛生的な管理が必要です。
再発する可能性があるので、ヒゼンダニが死滅して完全に治るまでは獣医師の指示に従って治療を続けなければなりません。

ツメダニによる皮膚炎

症状

原因

犬の被毛をかき分けて皮膚の表面を観察すると、フケがかさぶたのように厚く重なって、そのフケが動いているように見えたら、その下にはかすかに動くツメダニの集団が観察されるでしょう。その下の皮膚は赤くただれたように見えて、ときには毛先に白い粉のように動くダニが付着していて発見されることがあります。
犬を抱いたり同じ布団に寝たりしても、激しいかゆみのある赤い発疹(ダニ刺咬性皮膚炎)ができます。犬を飼い始めたときに、人間にこのような症状が生じたら、その犬の検査をする必要があります。
このツメダニは、畳に発生するコナダニを捕食して人間にも痒疹(強いかゆみをともなう皮膚病)をつくるツメダニとは違い、犬固有のものです。猫にも猫のツメダニが寄生します。

治療

薬浴程度の処置でも治りますが、粉末殺虫剤を全身に散布し10分程度待ってから浴剤やシャンプーなどで洗い流します。この処置を1〜3日おきに2〜3回行います。このとき犬の頭の上から肩、腰にかけての体の上面の厚く重なったフケを丁寧にこそぎ落とすようにとり除きます。
皮膚は赤くなってただれている場合もありますが、患部が乾燥すればただちに回復するので、おそれずに処置してください。
寄生の程度が重度の場合は全身の毛を刈ることも必要です。
シャンプーや毛刈りの際にはダニやその卵が飛び散らないように注意し、くしやブラシの共有はしてはいけません。また同居の犬がいる場合はその犬も検査が必要です。

マダニの寄生

症状

原因

犬の目のふちや耳のつけ根や頬、あるいは肩や前足、ときには指の間などにアズキ大から大豆大の光沢のある虫がしっかりと皮膚にくいこむように付着していることがあります。指の間に寄生されると痛いので、犬は跛行(足を引きずったり足を地面から持ち上げて歩く)します。
寄生しても吸血しないうちは犬の体表をすばやく動きまわるものもおり、ときには数百匹ものダニが寄生します。
都会でも公園や道路沿いの植え込み、芝生などを通って感染することがあります。

治療

2〜3匹の寄生ならそれぞれの虫体を静かに引き抜いてしまえば治療は終わりです。その際、ダニが食いついている根元からとってやらないと、ダニの頭部が皮膚に残ってしまいます。また、目のまわりに食いついたダニをピンセットでとる場合は目を傷つけないように注意しなくてはなりません。
大量の寄生やくり返し寄生を受ける場合には、ダニ対策用の滴下剤の塗布やスプレー剤の散布、ダニ対策用の抗生物質を定期的に投与してダニの駆除や寄生の予防をします。

ハジラミによる皮膚炎

症状

原因

微細な雨垂れ形の卵が毛に付着していることで発見されます。そのように犬の毛をかき分けると、皮膚の表面に2ミリくらいのやや褐色を帯びた灰白色の動きまわる虫と厚いフケが固着しているのが観察されます。
ハジラミはシラミと違って吸血しないので、かゆみもなく皮膚の直接の被害はありません。

治療

ハジラミは殺虫剤に反応しやすいので、簡単な処置でも反復して行えば駆除することができます。治療には、ノミ対策用の外用の殺虫剤を塗布あるいは散布した後に、入浴を数回繰り返すか、殺虫剤入りの浴剤で洗浄して駆除する方法があります。
集団で飼育している犬のうちの1頭に発生した場合は、すべての犬に対していっせいに検査と処置が必要です。
ちなみに猫にもネコハジラミが寄生しますが、シラミ類は寄生する種が決まっており、これは犬に感染・寄生することはありません。同様に、人間にも寄生しません。

ミミダニ(ミミヒゼンダニ)

症状

原因

耳あかにダニが寄生してはげしいかゆみと炎症を起こします。かゆみで耳を掻いたり頭を振ったりします。耳孔がただれることもあります。ミミダニが寄生していても全く症状が現れないこともあります。
犬のミミダニ(正式名はミミヒゼンダニ)はもともと猫に寄生していましたが、猫と同居する犬が多くなり、犬にも多く見られるようになりました。
ちなみにウザギの耳にも高率でウサギミミダニが寄生しています。

治療

耳孔のヒダの間や、チョコレート色の土のかたまりのように見える耳あかの表面に、白く透明な1ミリほどの大きさのかすかに動くダニが観察されます。
耳孔内の毛を残らず抜き取ってから、耳あかを丁寧にふきとります。その後、殺ダニ剤を塗布しダニ対策用の抗生物質を投与します。この処置を2〜3回繰り返します。
同居している犬や猫のミミダニ寄生の有無も確認し、必要なら並行して治療をしなければなりません。

白癬

症状

顔や目の周囲、耳や体の皮膚のやわらかい部分に円形の脱毛として見つけられます。円形状に抜けた部分には。フケのような細かい痂皮(かさぶた)が付着しています。そのまわりはわずかに赤く腫れて見え、この部分の毛は折れたり抜けやすくなっています。
子犬や猫がたくさん集まるところに犬を預けた、毛を刈ったり洗ったりしてもらったら毛が抜けた、飼いはじめた子犬や子猫が皮膚病になった、同居している犬や猫にこれと同じような症状が現れたといったときには、この病気の感染を疑います。
人間にも感染してタムシ状の皮膚炎を生じさせたり、子供の頭部に激しい皮膚炎を起こすことがあります。このように白癬は、人・動物共通感染症のひとつなので、注意しなければなりません。

原因

犬の皮膚や毛に、カビの一種の犬小胞子菌(ミクロスポラムカニス)が感染して起きる皮膚炎です。
猫に感染することが多いのですが、犬や人間にも感染し皮膚炎を起こします。
また、土を掘ったり土の上で生活する犬(子犬)には石膏状小胞子菌(ミクロスポラムギプセム)が感染します。

治療

まず全身の毛を刈ります。皮膚症状のある部分以外にも白癬菌が寄生しており、それが感染の元となる胞子を長い間まき散らすので、全身の毛を何回か刈ることが治療の早道です。それが人間への感染を防ぐことにもつながります。
さらに、1週間に1〜2回の割合でカビを殺す薬による薬浴を行い、抗白癬用の薬の塗布と同じく抗白癬用の抗生物質を内服させます。
これらの処置は皮膚の症状が治まっても、菌が完全に消失するまでの、45日以上の間続ける必要があります。治療の途中で処置を中断しないように、根治させてください。
他にも犬や猫を飼育しているときには、それらの動物も検査する必要があります。最近、地域によっては野良猫にこの病気が広がっているので、屋外にいる皮膚病の猫とは接触させないよう注意しましょう。

マラセチアによる皮膚炎

症状

原因

犬の外耳孔には、マラセチアが常在的に寄生しています。耳以外にも指の間やその他脂っぽい皮膚の表面にも寄生します。
アトピー性の皮膚炎や脂漏性外耳炎などを増悪させる原因になっています。

治療

原因となっている病気に対しての基礎的な治療と並行して、抗真菌薬や殺菌性の薬剤による洗浄、抗真菌薬を内服させます。
マラセチアが検出されなくなると、アトピー性皮膚炎の皮膚症状や指の間のそうよう(かゆみ)症状の程度が軽減して病気の改善が早められます。
脂漏性外耳炎もこれに対する治療と並行して、マラセチアの処置を行うことで治療の効果が上がります。
なお、不適切な食事や生活は皮膚や耳の症状を助長します。薬による基本的な治療だけでなく、皮膚や耳は常に清潔にしておくように心掛けます。
また、カロリーをとりすぎないような食事や運動不足をなくすなど、獣医師からの生活指導を守ることが良い治療効果につながります。

ハエウジ症(幼蛆症)

症状

原因

この病気は、ハエが活動する暖かい季節に戸外に飼われている体力の弱った犬などの体表に見られます。
犬の体表に悪化した腫瘍や潰瘍、化膿などがあって、四六時中ことに夜半に悲鳴を上げ続けて鳴き止まないような場合は、このハエウジの発生を疑ってみることが必要です。

治療

患部は汚れているので周辺の被毛は刈りとって、周囲に産みつけられたハエの卵や汚れ、かさぶたなどを丁寧に取り除いて消毒します。ハエの卵やウジも丁寧に取り除きます。場合によっては、噴霧器を使い水の噴射の力によってウジを取ります。
殺虫剤などは使用できないので、軽い麻酔薬で鎮静して作業をしやすくして処置を行います。
ウジによってできた傷は、腫瘍などでない限り回復は早いのが普通です。

ホルモン性皮膚炎(内分泌性の皮膚炎)

症状

分泌の異常を起こしたホルモンの種類により、脱毛する場所は異なります。例えば、副腎皮質ホルモンの分泌量が増えるか、成長ホルモンの分泌量が少なくなったときには、ふつう胴体から広く脱毛しますが、頭部や四肢の被毛は残ります。
性ホルモンの分泌量が多すぎたり少なすぎたりする場合には、生殖器や肛門周辺に脱毛が集中することがあります。
甲状腺ホルモンの量が減ると、犬種によっては胴体が左右対称に脱毛することがあります。これは犬でもっとも多いホルモンの異常です。
このような脱毛の特徴を知ることは、皮膚病を診断するうえで極めて重要です。
ホルモンは内蔵の働きにも関係しているため、ホルモン異常による皮膚病にその他の症状が伴うことがあります。例えば副腎皮質ホルモンの分泌量が増えると、大量に水を飲み、尿の量が増え、たくさん食べるようになります。また甲状腺ホルモンの分泌量が少なくなると動作が不活発になって、寒さや暑さに弱くなったり太ったりします。
性ホルモンの異常では、発情の周期が狂う、発情期が延びる、もしくはすぐに終わる、繁殖力が低くなるなどの症状が見られます。こういった全身の症状の観察も、ホルモンの異常を判断するためには大事なことです。

原因

ホルモンの分泌量が多すぎたり、少なすぎたりして皮膚病になります。
皮膚に影響を与えるホルモンの異常には、副腎皮質ホルモンの分泌量が増える、甲状腺ホルモンの量が減る、性ホルモンの量が多すぎるか少なすぎる、成長ホルモンの量が減るなどの変化があります。
被毛はその根元にある毛包の働きで伸びます。毛包は周期的に活動と休止を繰り返しますが、ホルモン性の皮膚病では毛包が休んだままになるので、抜け毛が増えます。

治療

ホルモン薬などの薬を投与します。腫瘍などによってホルモン分泌量が増えているときは、腫瘍を切除することもあります。
薬物療法では副作用が起こるおそれもあるので、十分な診断を行ったうえで、必要な薬物を投与します。治療効果が現れるまでには、数カ月以上かかることも少なくありません。健康診断を定期的に行いながら、治療を続けます。

甲状腺ホルモンの異常

症状

おもな症状は脱毛です。ゴールデン・レトリバーなどの比較的大きな犬では、胴体が左右対称に脱毛することがありますが、すべての例で見られるわけではありません。脱毛した部分にかゆみはありませんが、しばしば色素が集まって皮膚が黒ずみます。
皮膚の病変の他、元気がない、動作がにぶい、寒さや暑さに弱くなる、肥満になる、繁殖力が低くなる、食欲が異常に高まるなどの症状が見られます。

原因

甲状腺ホルモンの分泌量が十分でないために起こる病気で、中型犬以上の犬でしばしば発症します。
ホルモンの分泌量が少なくなる主な原因は、甲状腺が先天的に萎縮している、または何らかの病気によって退縮したためではないかと考えられています。薬物の投与や麻酔、あるいはストレスによって甲状腺ホルモンの分泌量が減ることもあります。

治療

一般に、長期にわたる甲状腺ホルモン薬の投与が必要になります。適正な量を与えれば、副作用が現れることはほとんどありません。
しかし、脱毛した場所に再び毛が生えそろうまでには、普通数カ月かかります。飼い主はすぐに良くならなくても焦らず、犬の状態を見守るようにしましょう。