フィラリア症
犬の代表的な心臓病で、フィラリアという寄生虫が心臓の内部に寄生することによって起こります。症状が進むと重大な結果となります。犬フィラリア症あるいは犬糸状虫症ともいいます。
症状
症状は病気の程度により様々ですが、軽い場合には、激しい症状が急に現れることは稀です。夏の蚊がいる季節にフィラリアに感染し、何年か経ってから症状が徐々に出ることが多いようです。
症状が軽い間は、ときどき咳が出るだけで、他には特に変わった症状が出ないこともあります。
しかし病気が進行して慢性化すると、咳は段々ひどくなり、咳をする時間も長くなります。そのとき出る咳はいわゆる空咳です。犬はものを吐くときのような姿勢で下を向き、何かがのどに引っかかったような咳をします。咳の刺激によって本当に吐き気が起きたり、喀血したりすることもあるので、はじめてその症状を目にするときは注意が必要です。
それ以外の大きな症状のひとつとして、腹腔(腹の内部)に水がたまる腹水があります。多くの腹水がたまらなければ、ちょっと太ったようにしか感じられないこともありますが、病気が進行し多量の腹水がたまってくると、腹部はパンパンに大きく張って来て、犬は動くのもおっくうになります。こうなると、腹部や胸部が腹水で圧迫されるため、食欲をなくしたり、呼吸が荒くなったりします。
せきと腹水は同時に出ることもありますが、どちらかひとつの症状しか出ないこともあり、また病気が進行すると、食欲不振や貧血、呼吸困難、運動をいやがる、やせるなどの他の症状も同時に起こることがあります。
治療を行っても、慢性的に経過した症状は徐々に進行し、やがては肝臓、腎臓などの他の臓器も異常をきたして、死亡してしまうことも少なくありません。
一方、このような慢性の症状とは違って、突然激しい症状を起こし、ときには急に犬の生命を奪ってしまう急性のフィラリア症もあります。
この急性フィラリア症は、大静脈症候群(ベナカバ・シンドローム)ともいわれ、慢性のフィラリア症の経過中や、それまであまりはっきりした症状が出ていない犬などにも急に起こることがあります。
その症状は突然の激しい呼吸困難と運動の低下で、犬はゼーゼーあえぐような呼吸をするようになり、引っ張っても動くのを嫌がるようになります。また同時に、茶色あるいは濃い濃い赤色の尿をすることもあります。
このような症状が出たときは緊急手術が必要になることもあり、病気はかなり重いと考えなければなりません。
原因
フィラリア症は、フィラリア(犬糸状虫)が心臓に寄生することによって起こる病気です。
フィラリアは、アカイエカなどの蚊が媒介することにより、犬から犬へと感染していきます。フィラリアの成虫は犬の心臓の中に寄生し、ミクロフィラリアという子虫を血液の中に排出します。蚊は、この犬を吸血するときに、子虫も一緒に吸い込みます。
蚊の体内である程度まで発育した子虫は、今度は蚊が他の犬を吸血するときにその犬に感染します。
犬に感染した子虫は、2〜3ヵ月の間そのまま皮膚の下や筋肉、あるいは脂肪組織などの中で発育し、その後血管に入って心臓まで移動し、右心室と肺動脈の周辺に達したのち、そこで3ヵ月くらいかかって成虫になります。成虫になると太さ約1ミリ、長さ20センチほどのそうめんのような糸状の虫になります。
慢性のフィラリア症は、右心室と肺静脈に寄生したフィラリアが、右心室や肺静脈に直接傷害を加えたり、多数の成虫が糸くずを丸めたような状態になって血液の流れを邪魔したりして、右心室に余分な負担を与えるようになり、うっ血性の心不全を起こします。
急性のフィラリア症は、通常フィラリアが寄生している右心室を越えて右心房にまで移動することにより、右心房と右心室の間にある三尖弁がうまく閉まらなくなり(閉鎖不全)、そのために様々な重大な症状を起こすものです。
治療
慢性のフィラリア症の場合には、薬の投与によって咳を止めたり、腹水がなるべくたまらないようにするなどの内科的な対症療法が主になります。肝臓や腎臓などの病気を併発していれば、その治療が必要になることもあります。
腹水がたまりすぎて食欲を失ったりすれば、注射針などを使って腹水を除去しなければならないこともあります。
これに対して急性のフィラリア症の場合は、緊急手術により心臓からフィラリアを摘出しなければならないこともあります。しかし手術が間に合わないほど病気が重いこともあり、かなりの危険を伴うことは覚悟しておかなければなりません。